なしおらしい子ですと、私ちっとも心配いたしませんけど、なかなかそんなじゃありませんわ。」
「やはり家になじまないからさ。そのうち、おいおいよくなるだろう。」
「そうでしょうか知ら。」
「何しろ、あれにとつては、この家はまるで他人の家も同然だろうからね。」
「そりゃ、そうですけれど。……でも、あんまりですもの、何かお浜に強く言って聞かされて来たんではないかと思いますの。」
「まさか。……かりに言って聞かされたにしても、あんな子供に、そう巧く芝居が打てるもんじゃない。」
「すると、あの子の性質なんでしょうか。」
「性質ということもあるまいが、自然ああなるんだね、これまでのいきさつから。」
「このままでいいのでしょうか。」
「いいこともあるまいが、当分仕方がないさ。」
「まあ、貴方はのんきですわ。あたし、一刻もじっとして居れない気がするんですのに。」
「そんなにやきもきするからなおいけないんだよ。」
「では、どうすればいいんですの。」
「つまり、教育しすぎないことだね。」
「だって、私には放ってなんか置けませんわ。第一あの子の将来を考えますと……」
「将来を考えるから、無理な教育をしないがい
前へ 次へ
全332ページ中48ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
下村 湖人 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング