。そして、跣足《はだし》のまま植込をぬけて、隣との境になっている孟宗竹の藪に這入ると、そのままごろりと寝ころんだ。
そこで彼は涼しい風に吹かれながら、ぐっすり眠った。眼がさめたのは昼過ぎだった。腹がげっそりと減っている。それに何よりも喉が乾いて堪えられないほどだ。
彼は起き上ると、八方に眼を配りながら、座敷の縁に忍びよった。そして縁板に足のよごれをにじりつけてから、足音を立てないように茶の間の方に行った。
そこには誰もいなかった。もう昼飯がすんだあとらしく、ちゃぶ台の上には薬罐《やかん》と飯櫃《おひつ》だけが残されていて、蠅が五、六匹しずかにとまっている。
彼はあたりを見まわしてから、薬罐《やかん》から口づけに、冷えた渋茶をがぶがぶと飲んだ。それから飯櫃の蓋をとって、いきなりそのなかに手を突っこんだ。
「誰だい。」
だしぬけに台所からお民の声がきこえた。次郎はびっくりして手を引いたが、その五本の指には飯が一握りつかまれていた。彼はあわててそれを口に押しこみながら、座敷の方に逃げ出そうとした。
しかし、もうそれは遅かった。座敷の敷居をまたぐか、またがないかに、彼は襟首をお民に
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