蔵は誰にも次郎の不届きなことを話さなかった。次郎もまたあくまで沈默を守った。誠吉は、次郎との会話を謙蔵に聞かれたとは思っていなかったし、また次郎の言ったことが、人に知られてはならないことのように思われたので、やはり口をつぐんで母にも言わなかった。
 謙蔵と次郎の視線は、それっきりめったに出っくわすことがなかった。万一出っくわしても、次郎の視線は、謙蔵の剣のような視線によってすぐ弾《はじ》きとばされた。弾きとばされたのは、彼の視線ばかりではなかった。次郎は謙蔵の眼をさけるために、いつも自分の体の置きどころを考えなければならなかった。――以前からも、彼は謙蔵を避けるふうがあったが、その当時とは意味がまるでちがって来たのである。――彼はなるべく学校のかえりをおくらす工夫をした。出来るだけ魚釣に出た。近所の農家が忙しくて遊び相手がないと、進んでその手伝いもやった。しかし日暮になって家の近くまで帰って来ると、彼の胸には、いつも鉛のような重いものが、のしかかって来るのだった。
 彼は、謙蔵を伯父さんとは決して呼ばなくなった。しかしそれは、そう呼ぶのがいやだったからというよりは、呼びたくても、もうそ
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