土蔵の窓に注意を払いながら、及び腰になって、路地の入口まで忍んで行った。
 土蔵の戸口には、果して謙蔵が、大福帳をぶらさげて石のように突っ立っていた。次郎ははっとして後じさりしようとした。しかし、もうその時には、異様な輝きをもった謙蔵の眼が、青ざめた額の下から、ぐっと次郎を睨んで放さなかった。
 次郎はすぐ地べたに眼を落した。しかし彼は、自分の右の頬に、いりつくような謙蔵の視線をいつまでも感じていた。
 あたりはしいんとしていた。路地の奥では、誠吉が、次郎が何をしてるかを心配しながら待っていた。
 やがて、土蔵の戸口から足音がして、次郎の首垂《うなだ》れている顔の前をゆっくり通りぬけた。その足音は、一つ一つ、次郎の鼓膜《こまく》を栗のいがのように刺戟した。
 次郎が、やっと自分を取りもどして、誠吉のところに帰って行ったのは、それから二三分も経ってからであった。彼は、誠吉に何をきかれてもはっきりした返事をしなかった。彼は何とかごまかしながら、そのまま誠吉を誘って、村の中を、あちらこちらと日暮ごろまで遊びまわった。
 その後、この事件がどんな結果になったかは、謙蔵と次郎だけが知っていた。謙
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