ないとかいうことについて、全く考えたこともなかったので、老人の言うことを、ちょっと珍しく思った。
「外の星はみんな動いています?」
「ああ、大てい動いている。あの七つの星も、北極星のまわりを、いつもぐるぐる廻っているのじゃ。一時間もたつと、それがよくわかる。」
いつまでも動かない星、――それが、ふと、ある力をもって、次郎の心を支配しはじめた。彼は歩きながら、ちょいちょい空を仰いで、北極星を見失うまいとつとめた。そして、これまでに経験したことのない、ある深い感じにうたれた。「永遠」というものが、ほのかに彼の心に芽を出しかけたのである。
彼は、本田のお祖父さんの臨終のおりに、ちょっとそれに似た感じを抱いたことを、記憶している。しかし、それはほんの瞬間で、しかもその時の感じは、お祖母さんのいきさつのために、ひどく濁《にご》らされていた。今夜の感じには、それとは比べものにならない、澄みきった厳粛さがあった。
しかし一方では、彼の草履の音が、ぴたぴたと音を立てて、たえす、彼の耳に、彼自身の運命を囁いているかのようであった。
(恭ちゃんや俊ちゃんは、何があっても、平気で家に落ちついていられる
前へ
次へ
全332ページ中216ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
下村 湖人 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング