のに、自分だけが、なぜ乳母やの家かち本田の家へ、本田の家から正木の家へと、移って歩かねばならないのだろう。一たい、何処が自分の本当の家なのだ。)
(父さんはこれから、何処へ行くのだろう、そして何をするのだろう。乳母やとは、あれっきり、一度も逢ったことがないが、父さんにもこれっきり、逢えなくなるのではなかろうか。)
 そうした疑問が、次から次へと、彼の頭の中を往来した。むろん、永遠とか、運命とかいうようなことを、はっきりと意識する力は、まだ少年次郎にはなかった。ただ、彼には、ふだんとちがった、厳粛な淋しさがあった。そして、星の光と草履の音との交錯《こうさく》する中を、默りこくって老人のあとについて歩いた。
「眠たいかの。」
「…………」
「こける[#「こける」に傍点]といけない。手をつないでやろう。」
 次郎の手を握った老人の掌は、しなびていた。しかし、その皮膚の底から、柔かに伝わって来るあたたか味にふれると、彼はしみじみとした喜びを感じた。そして、急に明るい気分になって訊ねた。
「僕、お祖父さんとこに、いつまでいるの?」
「いつまででもいい。」
「いつまででも?」
 そう言った次郎の心
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