低かったが、みんなの耳によく徹《とお》った。次郎は、半ば開いたお祖父さんの眼をじっと見つめながら、死が何を意味するかを、子供心に考えていた。彼はその場の光景を恐ろしいとも悲しいとも感じなかった。ただ、死ねば何もかも終るんだ、ということだけが、はっきり彼の頭に理解された。
最初に声をあげて泣き出したのは、お祖母さんだった。誰も彼もが、その声に誘われて鼻をすすった。
「三日前から、もう自分の臨終を知って、家の中まで見廻るなんて、何という落ちついた仏様でしょう。」
お祖母さんは、声をふるわせながら、そう言って、仏の瞼《まぶた》をさすった。
「ほんとうに。」
「ほんとうに。」
お祖母さんに合槌をうつ声が、そこここから聞えた。そして、また一しきり念仏の声が室内に流れた。
次郎は、しかし、やはり悲しい気分にはなれなかった。
(お祖母さんは、きっとまたそのうちにカステラのことを思い出すだろう。)
彼はそんなことを考えていた。しかしそれは決して、お祖母さんに対する皮肉や何かではなかった。「死ねば何もかも終る」という彼の考えが、「死ななければ何一つおしまいにはならない」という考えに移っていった
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