いることに気がついて、急に狼狽《ろうばい》した。
「次郎、お前何を抱えているんだね。」
 と、お民が先ずそれを見つけて言った。みんなの視線が次郎に集まった。するとお祖母さんが、
「おや、カステラの箱じゃないのかい。さっきお茶の間においたのが急に見えなくなったと思ったら、まあ呆れた子だね。」
 声はひくかったが、毒々しい調子だった。
「なあに、私か次郎にやったんです。……次郎、まだ残ってるなら、恭一や俊三にもわけてやれ。まさか、みんなは食えなかったんだろう。」
 俊亮はにこりともしないで言った。
 変にそぐわない空気が部屋じゅうを支配した。次郎は箱を恭一の前に置いて、父のそばに坐った。彼の心は妙にりきんでいた。
 永いこと沈默が続いた。そのうちに、次郎の眼は、次第に病人の顔に吸いつけられたが、まだ心のどこかでは祖母と母とを見つめていた。

     *

 お祖父さんがいよいよいけなくなったのは、それから三日目の夜だった。次郎たちはもう寝ていたが、起されてやっと臨終の間にあった。念仏の声が入り乱れている中で、彼も、鳥の羽根で御祖父さんの唇をしめしてやった。
「御臨終です。」
 医者の声は
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