彼は、カステラの箱をこのままここに置いたものか、それとも階下に持って行ったものかと、しきりにそのことを考えていた。
 そのうちに、ふと、階下で人々のざわめく気配がし出した。
 次郎は、はっとして、カステラの箱を小脇に抱えるなり、階段を降りて、大急ぎで離室《はなれ》の方に行った。離室は人の頭で真っ黒だった。大ていの人は立ったまま病人を見つめていた。次郎がその間をくぐるようにして前に出た時には、ちょうど医者が注射を終ったところであった。
「大丈夫でしょう、ここ一二日は。……しかし今日のような御無理をなすっちゃいけませんね。」
 と、医者は俊亮の耳元に口をよせて、囁《ささや》くように言った。
「よほど静かにやったつもりですが、……」
「どんなに静かでも、これほどの御病人を動かしたんでは、たまりませんよ。」
 間もなく医者は出て行った。みんなも安心したように、ぞろぞろとそのあとにつづいた。部屋には、家の者全部と念仏好きの老人たちだけが残った。
 次郎は、その時まで、まだ突っ立ったままでいたが、急にあたりががらんとなったので、自分もそこに坐ろうとした。そのはずみに、彼は自分がカステラの箱を抱えて
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