た。が、彼は急いでそれを打消した。それは、さっきの父の言葉が、いつもの快活な親しみのある調子をもって、彼の心に蘇《よみがえ》って来たからである。
 彼は急に食慾をそそられた。で、彼はすぐカステラにナイフを入れはじめた。むろんそう沢山食べるつもりではなかった。しかし、食べているうちにやめられなくなって、何度もナイフを入れた。
 そのうちに、彼は、あんまり慾ばって食べたら父に軽蔑されはしないだろうか、と心配し出した。見ると残りがちょうど箱の半分ほどになっている。切口がでこぼこで非常に体裁がわるい。彼はそれを直すために、もう一度うすく切りとって、それを食べた。そしてナイフを箱の隅に入れ、蓋をした。
(やっぱり、僕は父さんの子だ。)
 彼はその時しみじみとそう思った。しかしまた、彼は考えた。
(だが、どうして僕にだけ次郎なんていう名をつけたんだろう。恭ちゃんはお祖父さんの名から、俊ちゃんは父さんの名からとってつけてあるんだのに。)
 尤も、この疑問は、これまでにもたびたび彼の心に浮かんでいたことなので、少し慣《な》れっこになっていたせいか、さほどに気にはかからなかった。そして、いつとはなしに、
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