動作とが、どうも次郎にしっくりしなかった。弟の俊三《しゅんぞう》はまだ生まれて三年たらずではあったが、末っ子で、はじめから母の乳房《ちぶさ》で育ったためか、誰に対しても無遠慮な振舞いがあり、次郎の眼には、彼こそ第一の強敵のように映った。
 祖父と父とは、遠くから冷やかに彼を眺めている、といったふうであった。祖母は馬鹿に彼にちやほやするかと思うと、すぐ突っけんどんになった。
 こんなふうで、彼の実家はどんな角度から見ても、彼にとって愉快なものではなかった。で、彼がお浜に置き去りを食ったあと、沈默家になり、小食家になり、寝小便をもらすのは余儀ない次第であった。いわばそれは彼の自衛本能《じえいほんのう》ともいうべきものだったのである。そして、この本能の命令に従うことは、いつも事柄を次郎の有利なように展開させたというのは、彼は結局家中の者にもてあまされて、再びお浜の手に引き渡されることになったからである。
 次郎は最近二十日あまりも寝小便もたらさないで、お浜の許《もと》に落ちついていた。そしてそろそろ実家の記憶もうすらぎかけたところであった。ところが、今日はだしぬけに、お浜と一緒ですら嫌いな方
前へ 次へ
全332ページ中18ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
下村 湖人 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング