までもない。彼はそんな時には、きまって、恐ろしい沈默家になり、小食家になり、おまけに不安から来る寝小便をすらもらしたのであった。
彼にとっては、第一、家があまり広すぎた。狭っくるしい部屋の中で、むせるような生活をしなれて来た彼は、こんな広い家に這入ると、急にすべての人間が自分から遠のいてしまうような気がして、妙な肌《はだ》寒さを感じた。お浜がそばについている間ですらそうであったのに、まして、彼女がこっそり姿を消してしまったあとの頼りなさといったらなかったのである。
むろん、お浜が去ったあとでは、お民をはじめ、みんなで彼を取りまいて、いろいろと言葉をかけてくれた。しかしそれらの言葉は、彼の耳には、学校の先生が教壇の上からものを言っているようにきこえて、何だか身がすくむようだった。とりわけお民の言葉にはそんな調子がひどかった。お民としてはそれはやむを得ないことだったかも知れない。というのは、彼女は、こんご次郎の悪癖を矯《た》め、彼に上品な礼儀を教えこむという、母として重大な責務を負っていたのだから。
恭一は大して恐い兄とは思えなかった。しかし、その生《なま》白い顔と、いやにしとやかな
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