くなり、もう、永いこと肩車に乗らなかったところへ、ひょっくり直吉がやって来て、お浜と何か二言三言|囁《ささや》きあったあと、肩車にのせてやろうと言ったので、彼は大喜びだった。
校門を出て一町ほど北に行くと大きな沢がある。そこにはもう毎晩蛍が飛んでいるころだ。次郎はよくそのことを知っている。だから、彼は肩車に乗って、そこに連れて行って貰うつもりだったのである。
ところが直吉は、校門を出ると、すぐ南の方角に歩き出した。この南の方角というのが、次郎にとっては、あまり好ましい方角ではなかったのだ。というのは、その方角に、彼の父母や、祖父母や、兄弟達が住んでいる家があったのだから。
お民は、孟母三遷の教にヒントを得て、次郎を校番の家に預けはしたものの、彼がもの心つくにつれて、どうやらお浜に親しみ過ぎる傾向があり、それに、孟子の場合とちがって、学校というものの感化力が思ったほどでない、ということをだんだん知りはじめたので、この頃では、お浜が次郎を伴《つ》れてやって来るごとに、彼女を説きつけて、こっそり一人で帰って貰うことにしていたのである。
次郎にとって、それが大きな試煉であったことはいう
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