んだから、お偉いでしょう。さあ、自分で起っきするんですよ。」
次郎は、しかし、お浜にそう言われて、足をばたばたさせながら、もう一度烈しくわめき立てた。すると、お浜は、うろたえたように、持っていた箒を地べたに置き、彼を抱き起こしにかかった。
「おやっ。」
次郎を抱き起こしたお浜は、土埃《つちほこり》にまみれた彼の鼻と唇のあたりに、ほんの僅かではあったが血がにじんでいるのを見つけたのである。
「お前さん、坊ちゃんのお顔に傷をつけたんだね。」
彼女は、きっとなって、もう一度勘作の方に向き直った。
勘作は、その時、お鶴の方を抱き起こして塵を払ってやっていたが、お浜の見幕《けんまく》を見ると、そ知らぬ顔をして、さっさと校番室の方に歩き出した。
「お待ちっ。」
お浜はそう叫ぶと同時に、竹箒を取りあげて、うしろから思うさま勘作の頭をなぐりつけた。
「何しやがるんだい。」
勘作も、さすがに恐ろしい眼付をして向き直った。
「何も糞もあるもんか、大事な坊ちゃんの顔に傷をつけやがってさ。」
お浜は、まるで気が狂ったように、箒をふりまわして、勘作の顔といわず、手といわず、盲滅法《めくらめっぽう》
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