いつの間にかレグホンに向かって決死の闘いをいどんでいる。燃えるような鶏冠《とさか》の周囲に、地鶏は黄の、レグホンは白の、頸毛の円を描いて、三四寸の距離に相対峙《あいたいじ》している。
向日葵《ひまわり》と白蓮《びゃくれん》とが、血を含んで陽の中にふるえているようだ。
とうとう蹴合った。つづけざまに二回。しかし、二回とも地鶏の歩が悪かった。次郎は思わず腰をうかして「畜生!」と叫んだ。
地鶏は、しかし、逃げようとはしなかった。やや間をおいて、白と黄の羽根が、三たび地上尺余の空に相|搏《う》った。今度は互角である。
つづいて、四回、五回、六回と、蹴合《けあ》いは相変らず互角に進んだ。
次郎は、息をとめ、拳を握りしめ、首を前につき出して、それを見まもった。
闘いは次第に乱れて来た。最初まったく同時であった両者の跳躍が、いつの間にか交互になった。そしてお互に嘴《くちばし》で敵の鶏冠を噛むことに努力しはじめた。
こうなると、若さが万事を決定する。レグホンの古びきった血液は、強烈な本能の匂いを溶《と》かしこんだ地鶏の血液に比して、はるかに循環が鈍《にぶ》い。彼の打撃はしばしば的をはずれ
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