さいだけなんだ。――一たい二人は僕をどうしようというのだろう。僕が家にいると、二口目には、この子さえいなかったら苦労はないが、と言う。だから僕はなるだけ家にはいないことにしているんだ。すると、今度は、なぜそんなに老人に心配をかけるのかとか、親の心がまだわからないのかとか、まるで、お寺の地獄の画に描いてある青鬼のような顔をして、呶鳴《どな》りつける。心配なんかせんでおけばいいじゃないか。一たい祖母や母が僕のために何を心配するというのだ。二人の気持は大てい僕にわかっている。わかっているから、僕はなるべく家にいない工面をしているのではないか。)
(学校の先生が修身で話してきかせることなんかも、半分は嘘らしい。第一、親の恩は海よりも深しなんて言うが、そんなことは、父にはあてはまるかも知れんが、母にはちっともあてはまらない。それに先生は、乳母やのようないい人のことを、ちっとも話してくれないのが不思議だ。学校で毎日毎日乳母やの顔を見ているくせに。)
こんなことを考えながら、次郎はいつの間にか、視線を自分の足先に落していた。
と、築山の方から、急に烈しい羽ばたきの音が聞え出した。見ると、地鶏が、
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