しているらしい。しかもぬけぬけと、
「もういい、もうそれで我慢しておやり。」
 などと言う。そんな時の次郎の無念さといったらない。彼は、自分の眼が、熔鉱炉《ようこうろ》のように熱くなり、涙が氷のように瞼にしみるのを覚えるのである。
(一人では学校にも行けない俊三ではないか。喜太郎の前では、口一つきけない恭一ではないか。僕は何でこの二人に負けてばかりいなければならないのだ。)
(母や祖母の小言が何だ。兄に手向かいするのが悪いなら、俊三が僕に手向かいするのを、なぜとめない。弟に負けてやるのが本当なら、恭一が僕を撲るのをなぜ叱らない。二人の言うことはいつもとんちんかんだ。それに二人は僕が損をしてさえいれば、いつもにこにこしている。僕が僕の好きなことをした時に、二人が嬉しそうな顔をしたことなんか、一度だってありゃしない。そして何かと言えば「氏《うじ》より育ち」と言う。何のことだかわかりゃしない。大方|乳母《ばあ》やを悪く言うつもりなんだろうが、乳母やは誰よりも正直だ。僕の好きなことは乳母やも好きだし、乳母やの好きなことは僕も好きだ。学校で一番になることだって、僕は決して嫌いではない。ただ面倒く
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