くのであるが、すぐ老レグホンのために逐われてしまう。逐われる前に、ちょっと頸毛を逆立ててはみる。しかしどうも思い切って戦って見る決心がつかないらしい。
が、そんなことを何度も繰り返しているうちに、地鶏の頸毛の立ち工合が、次第に勢いよくなって来た。次郎はそのたびに息をはずませては、もどかしがった。
彼は、ふと、喜太郎の肉を噛み切った時のことを思い起した。そして、思い切ってやりさえすれば、わけはないのに、と思った。
が、同時に、彼の心には、恭一や俊三と喧嘩をする時のことが浮かんで来て、腹が立った。
「次郎、お前は兄さんに手向かいをする気かい。」
彼は母や祖母にいつもそう言われるので、つい手を引っこめてしまう。では、俊三になら遠慮なくかかっていけるかというと、そうもいかない。
「次郎、そんな小さな弟を相手に何です。負けておやりなさい。」
と来る。どちらにしても次郎には都合がわるい。そして、何よりも次郎の癪に障るのは、彼が叱られて手を引っこめた瞬間に、きまって相手が一つか二つ撲《なぐ》りどくをして引きあげることである。祖母は、わざわざその撲りどくがすむのを待って、双方を引分けることに
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