のである。
彼は、とうとう、ある日学校の帰りに、地団駄ふんで泣いている俊三を放ったらかして、仲間の二三人と何処かに遊びに行ってしまった。
(父さんは、こんなことで、僕の頭を煙管でなぐりつけたりはしない。)
彼は、遊びのあい間あい間に、そんなことを考えた。それでも、彼は、自分の家に帰るのが気まずかったとみえて、その日から、また正木の家に行って、しばらくそこから学校に通うことにした。
一五 地鶏《じどり》
ある日、次郎は、正木の家の庭石にただ一人腰を下して、一心に築山の方を見つめていた。
築山のあたりには、鶏が六七羽、さっきからしきりに土をかいては餌《え》をあさっている。雄が二羽まじっているが、そのうちの一羽は、もうこの家に三四年も飼われている白色レグホンで、次郎の眼にもなじみがある。もう一羽はそれよりずっと若い、やっと一年ぐらいの地鶏である。その汚れのない黄褐色の羽毛が、ふっくらと体を包んで、いかにも元気らしく見える。
ところで、この地鶏は、ぽつんと一羽、淋しそうに群を離れて立っている。おりおり頸をすっと伸ばして周囲を見まわし、それからそろそろと牝鶏の群に近づいて行
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