。しかも、村の小母さんたちは、彼のそんな気持などにはまるで無頓着に、
「まあ、お仲のいいこと。……そうして一緒に歩いておいでだと、どちらが兄さんだか、見分けがつかないようですわ。」
 などと言う。次郎にしてみると、これほどの侮辱はない。こんなことで兄弟が睦《むつま》じくなんかなれるものか、思う。
 彼は出来るだけ頭を真っ直にし、足を爪立てるようにして歩くことにつとめた。そして、硝子戸のある家の前を通る時には、いつも自分の影を覗いてみた。しかし、そんなことで、彼の自信が保てるわけのものではむろんなかった。
 で、結局彼は、出来るだけ俊三と離れて歩くことに決めた。これがまた一通りの苦心ではなかった。俊三は、そとでは妙に卑怯な性質で、いつも次郎にくっついて歩きたがった。それを次郎が嫌って無理に二、三間離れると、彼はすぐ地団駄《じだんだ》をふんで泣き出した。
 最初の一週間ほどは、それでも、次郎は母の言いつけをどうなり実行した。しかし、硝子戸にうつる自分の姿は、いつも皮肉に彼自身を嘲《あざけ》った。しかも、その間に、彼の「第三の世界」は、拒《こば》みがたい魅力をもって、たえす彼を手招きしていた
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