彼はそう考えたが、それを口に出して言おうとはしなかった。言えば藪蛇《やぶへび》だと思った。
で、とうとう次郎は、翌日から、俊三の学校通いのお伴をすることになってしまった。手があいておれば迎えに来るはずの直吉は、ただの一度も来なかった。
次郎の自由な天地は、それ以来ほとんど台なしになってしまった。彼は時間どおりに家を出て、時間どおりに家に帰ることを余儀なくされた。そして、家に帰ると、すぐ復習をさせられたり、用を言いつかったりした。お民としては思う壺で、いつも機嫌がよかった。しかし母の機嫌がよければよいほど、次郎の心は憂欝になっていった。
それに、このことは、次郎に、もう一つ、ちがった意味で大きな苦痛を与えた。というのは、彼は元来ちび[#「ちび」に傍点]だったのである。体質なのか、食物のためなのか、或いは根性が強過ぎるためなのか、里子時代から、どうも彼の身長は思わしくのびなかった。学校に通い出してからは、肉付や血色はめきめきとよくなっていったが、身長だけは、同年輩のどの子供よりも低くて、体操ではいつもびりにならばされた。
恭一を真《ま》ん中《なか》にして兄弟三人が並《なら》ぶと、ま
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