ような気がして、以前のように聞き流しにばかりはしておれなくなっていたのである。
「それに恭一は、もう五年だし、随分おそくまで学校でお勉強があるんです。だから、帰りに俊三をつれて来るのは、次郎の役目なんだよ。」
お民の言うことはいよいよ変だった。次郎は、これはうっかりしては居れない、と思った。
「僕だって俊ちゃんよりおそいや、俊ちゃんは午までですむんだから。」
咄嗟《とっさ》にいい口実が次郎の口をついて出た。そして、案外母もぼんやりだな、と内心で彼は思った。
「そりゃ解ってるさ。だから、なるだけ直吉を迎えにやることにしているんだよ。」
次郎は「なるだけ」が少々気に食わなかったが、それならまず我慢が出来る、と思った。しかし、そのあとがいけなかった。
「だけど、直吉も忙しいんだからね。もしか迎えに行けなかったら、お前がつれて帰るんですよ。俊三はお前のお勉強がすむまで、校番室に待たして置くように、お浜にも話してあるんだから。」
次郎は、それですっかりぺしゃんこになった。
むろん彼は、母の矛盾に気がつかないことはなかった。
(僕が校番室に出入すると、あんなにやかましく言うくせに。)
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