、そのためにだんだん少くなっていった。
もっとも、彼が校番室に遠ざかるようになったのは、決してそれだけの理由からではなかった。今では、彼は全く色合の異った三つの世界をもっている。その第一は、母や祖母の気持で生み出される世界、その第二は、お浜や父や正木一家に取り巻かれている世界、そして、その第三は、彼が、入学以来、彼自身の力で開拓して来た仲間の世界である。この第三の世界は、新鮮で、自由で、いつも彼を夢中にさせた。彼が第二の世界を十分に愛しつつも、第三の世界のために、より多くの時間を割《さ》くようになったのに、不思議はなかった。
とも角も、彼はこうして二年に進み、三年に進んだ。
彼の生活は日一日と多忙になった。そして多忙になればなるほど、彼の幸福な時間はそれだけ拡がっていった。時としては、拡がりすぎてかえって彼を不幸にすることすらあった。というのは、何処の家庭でも、子供が学校道具を持ったまま、暗くなるまで遊び暮して家に帰って来た場合、夕飯を食べさせないくらいのことはするのだから。
ところで、彼が三年に進級すると同時に、彼がせっかく二年越しで開拓して来た自由の天地に、大きなひびの入る
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