宙につり上げられた。手首と肩のつけ根とが無性に痛い。
 次郎は、それでも、泣き声を立てなかった。彼は両足をばたばたさせながら、めちゃくちゃに勘作の下腹を蹴《け》った。
「この餓鬼《がき》め。」
 次郎は、いきなりうつ伏せに地べたに放り出された。掌と、唇と、鼻柱と、膝頭とが、その瞬間に、打ちくだかれたような痛みを覚えた。彼は四五秒の間突っ伏したまま、身じろぎもしなかったが、次の瞬間には、地の底で鵞鳥《がちょう》が縮め殺されるような泣き声を立てた。
 お鶴も仰向《あおむ》けになってまだ泣いていたが、次郎の泣き声を聞くと、一層大きな声を出して泣いた。そしてそれから二人はせり合うように、代る代る泣き声をはり上げた。
 勘作は突っ立ったままじっと次郎を睨めつけていた。
「どうしたんだね。」と、そこへお浜が掃除をしていたらしく、竹箒を持ったままやって来た。
「何だか知らねえが、こいつ、お鶴の頬ぺたを、ひどくつねっていやがったんでね。」
「それでお前さんは、坊ちゃんをなげとばしたとお言いなのかい。」
「そうだよ。」
「そうだよもないもんだ。たかが子供の喧嘩じゃないかね。仕事なしだとは言いながら、大の
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