すめたのである。
 お鶴には、次郎が何でそんなことをするのかわからなかった。で、彼女は相変らずお玉杓子を頬にくっつけたまま、きょとんとして次郎の顔をみつめた。
 お兼は、藪睨みの眼を一層藪睨みにして「ひっひっ」と次郎のうしろで笑った。
 次郎は、その笑い声をきくと、何か非常に悪いことでもしたように思って、きまり悪くなった。ところで、男の子供というものは、きまり悪くなると、時として、妙に乱暴な気分になるものである。彼は急に立ち上って、あたりにあるままごと道具を、めちゃくちゃに足で蹴ちらしはじめた。
 お兼がまた「ひっひっ」と笑った。
 すると、次郎は何と思ったのか、今度はいきなりお鶴の方に飛びかかって行って、お玉杓子のくっついている頬をぬじ切るようにつねり上げたのである。
 お鶴は火がつくように泣き出した。
「父っちゃん」と、お兼は金切声をあげて、校番室の方に走り出した。そして、それから一二分の後には、次郎の両手は、勘作の木の根のような掌《てのひら》の中に、しっかりと握りしめられていたのである。
「何しやがるんだい、こいつ。」と、勘作の怒った声。
 同時に、次郎の体は、乱暴《らんぼう》に
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