、父の庄八が、ちょっと睨みのきく親分株の男だったので、性来《せいらい》気の小さいわりに、横暴な振舞《ふるまい》が多かった。恭一などは、学校の往復に彼と一緒だと、いつもびくびくしていた。次郎も最初のうちは、むろん彼の言いなりになっていた。
しかし、次郎の忍耐はそう永くはつづかなかった。
或日、彼がいつもの通り、校番室でお鶴と握飯を食っているところへ、喜太郎がひょっくり窓から顔をのぞかせて、
「おれにも一つくれ。」
と、その長い手を次郎の方に突き出したのである。
次郎は、お鶴と顔を見合わせて、しばらく返事をしなかった。鉢には、まだ握飯が二つ残っていた。しかし、その一つは次郎にとって、他の一つはお鶴にとって、どうしてもなくてはならないものだったのである。
「おい、早くよこさんか。」
喜太郎は、泳ぐように窓から体を乗り入れて言った。
次郎と、お鶴は、思わず喜太郎の方に尻を向けて、握飯をかばうようにした。
「畜生、覚えていろ。」
喜太郎は、そう言って、地べたに飛び下りたが、すぐその手で土塊《つちくれ》をつかむと、それを部屋の中になげこんだ。土塊は天井にあたってばらはらに砕けた、そし
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