思った。そして、どうかすると、いっそ次郎を正木に預けてしまおうか、と考えたりした。
「なあに構うことはない。当分、次郎の好きなようにさしておくさ。」
 俊亮は、母や妻がやかましく言えば言うほど、のんきそうに構えて、そんなことを言った。そのくせ、土曜に帰宅してみて、次郎がいなかったりすると、すぐ、自分で正木に出かけて行って、彼をつれて帰るのだった。
 そうした周囲の空気の中で、次郎は、ぐいぐいと彼自身の新しい天地を開拓していった。彼は、本田と、正木と、学校との三カ所を中心に、沢山の遊び仲間をこさえた。そして、どの仲間でも、彼は彼の腕力と、気力と、智力とに相当した地位を占めることが出来た。
 体が小さいせいもあって、腕力では大したこともなかったが、気力と智力とにかけては、彼はたいていの子供にひけを取らなかった。時とすると、年上の子供たちまでを、自分の手下のようにして遊んでいることがあった。ことに彼が、喜太郎を喧嘩で負かしてからは、仲間に対する彼の勢力は、急に強くなった。
 喜太郎というのは、村で魚屋兼料理屋をしている庄八の長男で、次郎より二つも年上であった。背が馬鹿に高くて腕力があるうえに
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