(〔dhvaja−hrita_〕[#rは下ドット付き])
[#天から26字下げ]10.〔muhuttika_〕(〔tamkhanika_〕[#mは上ドット付き。nは下ドット付き])(〔tatksanika_〕[#sは下ドット付き])
十誦律の第一索得と云ふは、有部の第二の財娉婦に相當する、善見律の第三雇住、第四衣物住は十誦律や有部律の第五以衣食得、又は衣食婦に相當し、第六、第七、第八の鐶得、婢得、執作の三者合して、十誦律、有部律の第六合生得、共活婦即ち梵語で云へば 〔sama−ji_vika_〕 に相當する、だから善見律は九種の婦を擧げて居るが、つまり、内容に於て變化はない、たゞ須臾得、須臾婦の目が他の律にはあるが善見律にはないことになる、「パーリ」文の律で、説明を見ると、第一の財物もて買得せる婦と云ふのは、財を出して、購ひ求め己が家に住居さす婦人である、第二の己が意樂で住する婦人と云ふのは好いた同志即ち女の好む男が、男の好む女を己が家に住居せしめたことを云ふので、今日の言葉で云はゞ、戀愛本位の結婚である、第三の食物を以て住居する婦人とは食物を與へて同棲せしむる婦人で、第四の衣裳で住居する婦人とは衣裳を與へて同棲せしむる婦人であり、第五の水得婦と云ふは、水瓶に手を觸れて、同棲せしむる婦人であり、第六の鐶を卸した婦と云ふは、婦人が頭に物を載せて運搬する際、据はりのよい樣に丸い枕のやうなものを髮上に戴く、(京都の近郷の八瀬大原の婦人などは藁で作つた鐶を戴いて居る)これを頭から卸さして、勞働をやめさせ、己が家に同棲せしむるからかく云つたもので、第七は婢であつて同時に婦としたもので、第八は家事を辨ずる女で、同時に婦となつたもの、第九は、旗鼓を樹てゝ戰陣の間に敵の婦女を囚へてつれ歸り、己の妻にしたもの、第十は暫時の間、夫婦關係を結んだもので、今日の言葉で云へば、自由結婚で嫌になれば、すぐ離れてもかまはないと云ふやうなものである、かく精細に婦の種類を列擧したのを見ると佛教の戒律の注釋せられた當時に印度の社會が認めて正當の妻であるとしたものは、ざつと七種乃至十種あつたもので、日本の今日に於て、法律上、妻といふものに比すれば甚だ其範圍は廣い、察するに、此等の戒律の注疏をした人々は自分達が法律家であつたか、然らざれば、當時の法律家の間に用ゐられた專門語を使用したものと思はれる、一讀するに今日の所謂法律家(ヂユリスト)が書いたのではないかを疑はれる、今、此等の語を古代印度の法典で今日にも傳はつてあるものゝ中に探つて見たが一向に見當らない、しかし内容に於ては類似の點がないでもない、古代印度の法典と云へば、日本の法學者間に一番よく知られて、しば/\引用せらるゝのは「マヌ」の法典である、しかし「マヌ」の法典は、各種の法典を集めて大成したもので決して一番舊い法典でないことだけは斷つて置く、「マヌ」の法典で妻と云ふものは左に掲ぐる樣式によつて、女が男と一所になつたときに出來るものである、
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一、梵天《ブラーフマ》式結婚法、この式では年頃の女子をもつて居る父親が婿たる人に水を灌いで己が女を與ふるのである、
二、天神《ダイ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]》式結婚法、この式に依ると、祭祀の際、女子に瓔珞をつけて、着かざらして祭司に與ふるのである、
三、古仙《アールシヤ》式結婚法、女子の父は婿となるべき人より、一對の牛を受けてこれに女を與ふることになつて居る、
四、健達婆《ガーンドハル※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]》式結婚法、年頃の男女相愛して各自の意樂から結婚をするのである、
五、羅刹《ラークシヤサ》式結婚法、又は刹帝利《クシヤートラ》式結婚法、これは即ち掠奪婚である、
六、阿修羅《アーシユラ》式結婚法、これは賣買婚である
七、生主《プラヂヤーパテイヤ》式結婚法、女子の父が、婿の方よりの申込を受け、汝等二人共に法を行ぜよと云つて、婿に禮して女子を與ふる式である、
八、毘舍遮《パーイシヤーチヤ》式結婚法、これは、年頃の女子が睡眠中か藥酒に醉ふて居るか、狂亂に陷つて居るときを伺ふて、これを誘拐し、強ゐて、結婚することを云つたのである、
[#ここで字下げ終わり]
以上は古代印度の立法者が正當又は已むを得ぬとして、認めた結婚の樣式である、しかし印度は前にも云つたごとく古國であると同時に大國である、文野雜糅して、一律には論じ難い國である、古代の靈賢が認めたものゝ外に結婚の樣式が種々ある、たとへば一婦多夫の陋習は昔もあつたし、今も邊陬の地には存在して居る、叉陋習ではないが、古代の印度では武士即ち刹帝利族の女子に限り、兩親の許可を得て年頃の男子を招き武藝を校べ合はせた上で一番勝つた男子に花束をなげ、擇んで己の夫とするこ
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