のクラスは十名にも足らない僅かな人数であつたから、恐らくその所為であつたらうと思ふのだが、勤勉な秀才を数の中へ入れ漏してゐたのだ。一列一体に頑として学校へ出席することを憎む奴ばかりが揃つてゐた。そこで一日、学監はクラスの委員に出頭を命じて厳しく叱責を加へ「さう一列一体に休んでは、先生方が月給を受取る時に大変恥ぢた顔付をしてしまふ。斯様な精神上の犯罪に対しては、教養ある大学生の身分として最も敏感でなければならぬ筈である。一講座に一人づつ、今後漏れなく出席するやうに協定せよ」と厳重に申渡した。僕達は早速緊急クラス会議を開催し、各自の分担を籤引《くじびき》によつて定めることとした。結局僕の責任に決定をみた講座は霓博士の「ギリシャ哲学史」であつた。
 僕が不幸な病気のために悶々として悩んでゐたら、ある麗かな午《ひる》過ぎのこと、級長が蒼白い怖い顔付をして堅く腕を組み乍ら僕の部屋へ這入つて来た。彼は長いこと黙つてヂッと僕を睨まへ、如何にも口惜しげに菓子ばかり噛み鳴らしてゐたが――
「悲憤慷慨のいたりであるぞ!」と急に劇しい嘆きをあげた。
「ダ、ダ、誰が暗殺されたんだア! 又又、ド、何処のお嬢さん
前へ 次へ
全32ページ中10ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング