霓博士の廃頽
坂口安吾

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)甃《いしだたみ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)三|米《メートル》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「足へん+宛」、第3水準1−92−36]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ムニャ/\
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[#7字下げ]1[#「1」は中見出し]

 星のキラキラとした夜更けのことで、大通りの睡り耽つたプラタナの陰には最早すつかり濡れてしまつた街燈が、硝子の箱にタラタラと綺麗な滴を流してゐたが、――シルクハットを阿弥陀に被り僕の腕に縋り乍らフラフラと千鳥足で泳いでゐた霓博士は、突然物凄い顔をして僕を邪慳に突き飛ばした。
「お前はもう帰れ!」
「しかし、だつて、先生はうまく歩けないぢやありませんか――」
「帰らんと、落第させるぞ!」
「それあ、ひどい!」
「こいつ――」
 霓博士はいきなりグヮン! と僕の膝小僧を蹴飛ばした。その途端に、僕よ
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