まつた。しかし博士は倒れても尚胸に拳闘の型を崩さず、勃々たる闘志を見せて騒がしく泡を吹いた。
「オ、オレを誘惑した蒼白き妖精ぢやアよ! ア、アンゴウが現れとるウよお! 愛するミミ子よ――う。こいつを殺してお呉れえ、よお――う」
「ワアッ!」
 僕は驚いて一度に三|米《メートル》も跳ね上つた。――
 硝子の千切れた二階の窓から一人の妙齢な麗人が――ピ、ピストルを片手に半身を現しながら、殆んど思惟を超越した英雄《ナポレオン》であるかの如く何の躊躇することもなく僕に向つてサッ! と狙ひをつけたからだ――
「タ、助けて呉れ! ワッ!――」
 僕は一本のプラタナを突然ブルンと飛び越えて道路の中央へ現れると、直線となつて逃げ出した。パン! パン! 一本の空気の棒がブルン! と耳もとを掠めて劇しく前方へ疾走して行つた。そして、自分の唇を食べるやうに劇しく噛み、睡つた通りを一目散に走つてゐたら、並木道のズッと先で、しつきりなしにパラパラと花火のやうな流星が降りそそいでゐた。

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 性来飽くまで戦闘的な趣味を持つたミミ夫人と博士との結婚に就ては、全てが博士の責任で
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