欠伸《あくび》まぢりに明るく騒がしい二階の窓から目を逸らしたら、屋根の上に物凄く輝いてゐる星の眼玉がギラリと僕を睨みつけた。そしたら、ガン! 突然窓が一つぺんに爆発して、ビュン! と黒い塊が部屋の中から飛び出してきた。余程空気の抜けきつてだらし[#「だらし」に傍点]のない塊とみえる、厭にふうわりと思はせぶりな抛物線を描き乍ら飛んできたが、淋しい道路へ落ちたかと思ふと其れきりピタンと吸ひついて全く動かなくなつてしまつた。今に動くかと思つて待ち構えてゐたら、頭の上のプラタナの繁みだけが少しザワザワと揺れて動いた。僕は忙しく腕組みをしてキラキラした空を見上げ、綺麗な星を幾つとなく算へる振りをし乍ら頻りに目まぐるしい反省を纏めやうとしてゐたが、それからソット近づいて覗いてみたら、其れは霓博士であつた。
「セ、センセーイ。しつかりなさい!」
「ZZZZ……」
「セ、センセーイ。しつかりなさい!」
「ZZZZ……ウ、こいつ!」
目を見開いて僕の顔を認めると、忽ち博士は闘志満々として拳を振り振り立ち上つたが、よろめき乍ら敢なく空気を蹴飛ばして三回ばかり空転《からまわり》ののち、ギュッと再びのびてし
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