柔い目映《まばゆ》い光を一杯に浴び乍ら行はれてゐて、見てゐると、見れば見る程実に愉しげな歓喜に溢れた遊戯のやうに思はれてしまふのであつた。僕は面白く又愉快になつて、パチパチと手を打ちながらゲラゲラ笑ひ出して見てゐたが、そしたら――
 さうだ、日頃の仇を晴らすのは此の機会を措いては滅多にあるまい、と突然僕の考へが変つたので、僕は早速ミミ夫人に加勢していきなり博士に飛び掛ると、どやしたり蹴飛ばしたり頸筋をゴシゴシ絞めつけたりした。博士は二人に散々やつつけられて悲鳴を上げる根気も失つてゐたが、辛うじて僕達の手を振り切ると這這《ほうほう》の体《てい》で死者狂ひに丸まり乍ら、ひた走りに森の中へ駈け込んで行つた。
「待て!」
 ミミ夫人は厳しくさう叫んだが、その実それは体裁だけで内心悉く鬱憤を晴らしたものらしい、別に追駈けもせずヂッとうしろを見送つてゐたが――突然僕に気が付くと忽ち帯の間からピストルを取り出して、パン!
「ワアッ! タ、助けて呉れ!」
 僕も亦一条の走跡を白く鋭く後へ残して森の中へひた走りに躍り込んでしまつた。
 僕は森の奥深くの、小高い丘の頂上へフラフラとして行き着くことが出来た
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