蒼空を薄くチラチラと目に映したが――
やうやく酒場の丸木小屋へ辿りつくとグワン! と扉を蹴破つて――
「タ、助けて呉れ! パンパンパンだ! 酒だ酒だ、酒を呉れえ!」
壁に作られた戸棚の上から、盲滅法にしがみついた一本の壜を抱きしめると、力をこめて栓を抜きあげ口の中へ捩ぢ込もうとした。そしたら、
ブルン! 突然黒い塊がいきなり僕の胸倉に絡みついて、グリグリぐりぐりと鼻を撮んで捻りあげた。疲労困憊して劇しく息を切らしてゐた僕は忽ち喉を塞いで、クククククと呻いてゐるうちにドカン! と倒されクシャクシャに踏み潰されてしまつた。
「こいつ又――現れおつたアか! 不愉快なる奴ぢやアよ!」
博士は僕を部屋の片隅へ蹴飛ばし蹴飛ばし転がしやつて遂ひに隅つこへ丸めてしまふと、悦しげにニタニタと頷き乍らクララの方へ帰らうとした――が、急に
PAH!
鋭い絶叫をわづかに一つ置き残したかと思ふと、もはや遥かな抛物線を遠い草原の彼方へまで描き乍ら、窓を一線に貫き通しチラチラと麗らかな光線を浴びて、まつしぐらに飛び去つて行く有様が見えた。みんなドキンとして振り返つたら、輪廓の綺麗な年若い麗人が入口にスラ
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