――身体の八方を忙しく探してゐたが、やにわにポケットへ首を捩ぢ込むと足をバタバタふるわせながら
「タタタ魂がなくなつたアよ! タタ魂ぢやアよ! タタタ魂……」
そして博士は握り拳を大きく打ち振りながら合点合点合点と慌ただしげに宙返りを打ち初めたのであつたが、見る見るうちに速力を増し、やがて凄じい唸りを生じて部屋の四方に激しい煽りを吹き上げたかと思ふと、殆んどプロペラのやうに目にも留まらぬ快速力で廻転してゐたのであつた。
「オオオ、オレの魂を貸してやる!」
余りの激しさに気を取られて、此の時までは流石に言葉も挿しはさめずに傍観してゐた一団の酔つ払ひは、突然一度に湧きあがつて「タタ魂を……」と絶叫しながら一様に霓博士の煽りを喰ひ、これらも亦プロペラのやうに廻転しはぢめたのであつた。――これ等|数多《あまた》の目には映らぬ酔ひどれ共の透明な渦巻を差し挟んで僕とクララはお互の姿をハッキリと睨み合ふことが出来たが、僕は突然クラクラと込上げてきた怒りと絶望に目を眩ませ、やにわにジョッキーを振り上げたかと思ふ途端にヤッ! 気合諸共クララの頭から一杯の水をザッと鮮やかに浴せかけた。そしてクララが「
前へ
次へ
全32ページ中24ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング