雷同性たるや実に憎んでもあきたりない!」
「黙れ/\/\/\――」
 ブルン! 突然空気が幾つにも千切れて、沢山の洋酒の壜が僕を目掛けて降つてきた。僕は全く困惑して部屋の片隅へ頭を抱えて縮こまつてしまつたら、ドカドカと一隊の酔ひどれ共が押寄せて来て僕を忽ち取り囲み、壁の中へめり込むくらひポカポカ僕を蹴つ飛ばしてしまつた。連中が僕をいい加減|圧花《おしばな》みたいに蹴倒してそれぞれの椅子へ引き上げる頃、霓博士はやうやく意識を恢復した。そして、クララの胸に抱かれ乍ら手厚な介抱を受けてゐる幸福な自分の姿に気付くと、博士は忽ち感激して興奮のあまりつひフラフラと再び悶絶しさうに蹣跚《よろ》めき乍ら立ち上つたが、辛うじて立ち直ると――
「ク、クララよ、おお、星の星の流星――森の樹樹樹、うう、タ、魂、魂々々、おお用意せられたる、タ、タマシヒ……ぢやアよ!」
「まあ嬉しい! あたしどんなに博士の気高い魂を頂きたいと思つてゐたことか知れませんわ! ほんとうに、こんな嬉しい日があたしの思ひ出の中にあつたでせうかしら……」
「タタタタ、魂を……」
 博士は泡を喰つて目を白黒に廻転させ、上衣を脱ぎ捨てて心臓を
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