は僕の頭上に酒を浴せかけたり、又或者は珍しげに僕の鼻を撮んでみたり蹴つ飛ばしたりした。僕は死物狂ひに憤慨しながらジタバタしてゐたが、つひにエイッ! と立ち上ることが出来たら、其のハヅミに博士は激しく跳ね飛ばされて壁にしたたか脳天を打ちつけた。そしてフラフラと悶絶するのをクララは飛ぶやうに走り寄つて抱き上げ、
「しつかりなさい! 博士、ハカセッたら。いいわ、いいわ、博士、きつと仕返しをなさるといいわ。アンゴを落第させちまひなさいよ。ねえ、ねえ、ねえ……」
「さうだ、さうだ、全くだ! あいつを落第させちまへ!」
「チ、畜生! 分つたぞ! 君達はみんな実に卑怯千万だぞ! つまり君達はみんな日頃細君にやつつけられてゐるものだから不当にも博士に同情して僕ばかり憎むものに相違ない。君達は君達の卑劣な鬱憤を何の咎めらるべき筋もない僕によつて晴さうといふのだ。しかも此の気の毒な神経衰弱病者である僕の運命を、君達の卑劣な満足によつて更に救ひ難い悩みへまで推し進めやうとしてゐる。ことに又クララの如きチンピラ娘にあつては実に単なるヒステリイの発作によるセンチメンタリズムによつて僕を憎悪するもので、その軽卒な
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