しくありませんからね……」
「ナ、なぜだ?」
「貴方は可哀さうな博士を虐めてばかりゐるぢやありませんか! ごらんなさい! 博士のお身は傷だらけよ。可哀さうな、お気の毒な博士! どんなに苦しんでいらつしやることでせう! ねえ、皆さん。それはみんなアンゴが悪いのですよ――」
「ウ、嘘をつけ! それあ博士のオクサンが少しばかり腕つぷしが強すぎるんだい! オ、俺なんぞの知つたことぢやアないんだぞ!」
「お黙りなさい! あんたが博士を庇つてあげないのが悪いのよ! おほかた不勉強で落第しさうだから、博士のオクサマにおべつか[#「おべつか」に傍点]使つて通信簿の点数をゴマカして貰ほうつて言ふんでしよ」
「ウ、嘘だい! こう見えても俺なんざ、秀才の秀才――」
「ウ、うそつき!」
いきなりブルン! 黒い小さな塊が突然僕に絡みついたかと思ふと、僕の鼻をギュッと握つてグリグリ捩ぢ廻した。霓博士だ! そして僕をドカンと其場へ捻り倒してしまふと博士はガンガン所きらわず踏み潰しはぢめた。
「ブラボオ! ブラボオ! アンゴをやつつけろ!……」
何といふことだ。一座の酔ひどれ共は急に僕を憎み初めて立ち上ると、或者
前へ
次へ
全32ページ中21ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング