まふのだ。最後に一人取り残されたバアテンダアが――
「ワアワアワア! マ待つて呉れえ! 家が潰れてしまふよう! 大変だあ、大変だあ! タ、魂を拵へるから、マ、待つて呉れえ、タ、頼むからよう!……」
と泣き喚きながら、やにわにカクテル・シェーカアの中へ自分の身体をスッポリもぐすと、これにコニャックとジンを注ぎ込みシャルトルーズに色づけをしてクルクルくるくると廻転しはぢめるのだ。タッタッタッとグラスを並べて身体諸共躍り込み、
「デ、デ、デキタ!――」
「ワッ!」
一群の酔つ払ひは嵐のやうに殺到して、グイグイ呑みほしてしまふと、グッタリ其の場へ悶絶して動かなくなつてしまふのだ。そしてその頃ホノボノと森の梢に夜が白みかかつてくるのであつた。――霓博士が此処の常連に加はつて以来、この廻転の速力が一段と目まぐるしい物になつたと言はれてゐる。
ところが或日のことであつた。その夜は僕が先づ真つ先に立ち上つて、クララに魂を捧げやうとしたのであつた。
「おお、星の星、樹の樹、空の空!」
「お止しなさい! そして貴方なんか森の奥底へ消えてしまふといいんだわ。あたしは貴方のやうなネヂけた人の魂なんか欲
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