で、誰か風みたいに飛び込んで来る奴があるのかと思つたらさうでもない、顔の半分すら教室の中へ現はさないうちに、忽ち扉を再び閉ぢて今来た廊下を全速力で戻りはぢめた。余程廊下を向ふの方まで戻つてから、「さうだ、教室の中に誰か居たやうだ――」と気付いたらしい、急に立ち止る跫音がしたと思ふと、今度は猫みたいに跫音を殺し乍ら忍び足で戻つてくる気配がした。間もなくソッと把手が廻つて、ビクビクした眼の玉が怖々と中を覗きはぢめたが、僕をハッキリ認めると怪訝な顔付をして考へ乍ら、少しづつ身体を扉の内側へ擦り入れてゐるうちに、とうとう全身教室の中へ立ち現れてしまつた。言ふまでもなく霓博士である。博士は訝しげに思案し乍ら、首を振り振りどうやら教壇の椅子へまで辿りつくことができて其処へ腰を下したが、僕を様々な角度から頻りに観察して憂はしげに息を吐いた。それから、次第に意識を取り戻したと思ふうちに、今度は莫迦に偉さうに突然胸を張つて僕をウン! と睨みつけた。
「なに故に永い間休みおつたアか!」
「実は途方もない神経衰弱に苦しめられて煩悶してゐたものですから、つひ……」
僕が苦しげに溜息をついたら、博士は改めて神
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