経衰弱の角度から僕の憔悴した蒼白い顔を観察しはぢめたものらしい――暫くして、絞めつけられた鶏のやうな呻き声をあげた。
「プープープー、それは甚だ宜しくなアい!」
霓博士は暗澹とした顔をヂッと僕に向け合せて、殆んど同情のあまり今にも涙の溢れ出るやうな親密な表情をした。そして若し、博士の言葉がものの十秒も遅れて発音されたなら、僕は博士が発狂したものと感違ひして、恐怖のあまり突然窓を蹴破つて一目散に逃走してゐたに相違なかつた。
「ワシも長いこと神経衰弱に悩んどるウよ」
「ア、ア。そ、そうでしたか――」
「キミは睡眠がとれるかアね?」
「駄目です! ああ、駄目々々! 実に悲惨なものです。毎夜々々ふやけた白い夜ばかりなんですが! ああ!」
「ワ、ワシも、ワシも、ワシも悲惨――う、ぶるぶるぶるう――ワ、ワシもワシも白い夜ぢやアよ!」
博士は殆んど悲しみのあまり今にも悶絶するところであつた。そして劇しく咳上げはぢめ胸を叩いて※[#「足へん+宛」、第3水準1−92−36]《もが》き苦しむものだから僕が慌てて介抱したら、博士は胸に痙攣を起して見ぐるしく地団太踏み乍らも、眼玉の動きや手の振り加減によつ
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