ッたくった。ソースビンを部屋の片隅へ持ち去る。ついでにヒシャクに水を一パイくんできて、
「これでも、くらえ!」
 ヒシャクの水をシシド君にぶッかけた。この水をまともに顔にくらったから、シシド君、歯をくいしばり、惨敗の形相である。ようやく袖で顔をふき終り、
「実に、おどろくべきケチだ」
「なにイ!」
「それ、それ。その調子だから、ソースビンをひッたくッてソースをぶッかけるかと思ったら、ソースをテイネイに隅の戸ダナへしまってきて、水をぶッかけたから感心したのさ。実に、見上げたケチだ」
「この野郎!」
 オタツはヒシャクを左手に持ちかえ、右手のコブシをつくってシシド君の胃を一撃した。
「ウッ!」
 シシド君、胃袋の上を押えて、よろめく。歯をくいしばって、必死にこらえて、ともかく三畳まで戻ってきてバッタリとリュックにもたれて、
「ウーム。ヒシャクを左に持ちかえ、右のコブシで打つとは、なんたるケチ。一挙一動、言々句々、ケチならざるはない。ドロボーの二号にしてこのケチあり」
 と言いかけて、あわてて最後の句をのみこんだ。

          ★

 カツレツも一ツしか買ってこない。オタツ自身もカ
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