ツレツを食べる気持がないが、シシド君にはカツはおろかゴハンを食べさせる気持がないのである。
シシド君がリュックからホシイイをだして食っていると、ドロボー君がカツを千切ったのと小魚のツクダニを紙にのせて持ってきてくれた。
「気だての悪い女じゃないんだが、どういうわけかオメエが気に入らねえらしいや。今日のところは我慢してくれろよ」
とドロボー氏が小声であやまった。
「そんなに気が弱くて、よくあの商売がつとまるねえ」
シシド君、ありがとうとも云わずにカツをつまんでムシャ/\やりながら、こう云ったから、ドロボー君は気を悪くして、白い眼でジッと睨みつけて戻ってきた。
四合ビンを手ジャクでグビリ/\やりだしたが、なんとなくヤケ酒の切なさだ。
「なア、オタツ。お前だけはオレを裏切りやしねえだろうな」
「何を云ってんだよ、この人は。私はお前に首ったけなんだよ。ほかの男はアブに見えるんだったら」
「そうかなア。それにしちア、水くさいな」
「なにがさ」
「お前、さっきの千円札のオツリ返さねえじゃないか」
「アレエ。ほかにお金がいらないと思っているのかい」
「それはそれで月々渡してやるじゃないか。今
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