吝嗇神の宿
人生オペラ 第二回
坂口安吾
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)跫音《あしおと》
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ムシャ/\
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新宿御苑に沿うた裏通り。焼け残った侘しい長屋が並んでいる。とみると、その長屋の一部を改造し、桃色のカーテンをたらしてネオンをつけたバーもある。ドロボー君はその隣の長屋を指して、
「あの二階がオレの女のアパートだ」
はなはだ御自慢の様子である。長屋の二階に外部から階段をとりつけ、階下を通らずに行けるようになっている。至って人通りが少く、しかもアイマイ宿のような酒場も点在しているから深夜や未明に歩いてもフシギがられもしない。国電、都電にも近く、ドロボー君のアジトとしては日本有数の好点。
「この階段をこうトントンと登って……」
心も軽く案内に立つドロボー君、二階のドアをあけて、タダイマア――と靴をぬごうとすると、土間の女の下駄の横に靴べラが落ちているのに目をとめた。みるみる顔色が変る。それを拾って、慌てたようにポケットに入れて、
「オレが旅から帰ると、いつも様子が変だと思
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