い思いしていたが、やっぱり……」
 人相もガラリと変って、すっかり陰鬱になってしまった。
 その二階は六畳と三畳の二間つづき。さて女主人なるものを一見してシシド君もいささかキモをつぶした様子。顔の造作がバラバラでとりとめがなく、よくふとっている。年の頃は二十五六。ドロボー君の年齢の半分ぐらい。娘々したところが残っているせいか、造作のバラバラな顔が、角度や光線のカゲンでなんとなく可愛く見えないこともない。顔も姿も、金魚のようだ。
「オタツ――オタツちゃん、てんだ」
 ドロボー君はこう紹介したが、オタツはただならぬ見幕でシシド君を睨みつけ、
「なんだい、この唐変木は」
 田舎ッペイのオタツは単純だ。犬と同じように外形の貧相な人間を警戒、軽蔑するのである。
「シナから引揚げてきた人だ。様子の悪いのを気にするな。オレが人相を見立てて一度も狂ったことはねえや。ボヤッと脳タリンのようだが、これで気のよい人間だから、可愛がってやんなよ」
「この野郎をウチへあげるツモリかい?」
「いいじゃないか。宿ナシなんでよ。オレの仕事の手伝いをさせるんだから」
「こんな野郎をウチへあげて、シラミでも落しやがったら
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