、どうする気なのよ。野郎! 三畳にすッこんでろ。こッちへ来やがると承知しねえぞ」
 本当に立腹したらしく、オタツは肩で息をして凄んでいる。腕に覚えもある様子である。シシド君は三畳へリュックを下して、アグラをかいた。ドロボー君もそれ以上オタツを説得できないとみて、自分だけ六畳へ通り、にわかに面色蒼ざめてワナワナとふるえ、
「オメエ、オレの留守に男をくわえこんでいるな?」
「ナニ云ってんのさ、この人は」
「この靴ベラをみろ。これは誰のだ。これが土間に落ちてたからにゃア、男が上らなかったとは云わせねえぞ」
「知らないね。ここのウチは月に三度しか掃除しないから、十日分の物が落ちてるよ。一々覚えていられるかい」
「シラッパクれるな」
「よしなよ。私はお前の留守中には三度三度の御飯も一膳ずつケンヤクしているぐらいお前さんに惚れてるんだよ。よその男なんか、アブかトンボにしか見えないよ」
 オタツが真実むくれているのは、本当にそう思いこんでいるからであろう。しかも、怒気を押えて、つとめて哀願の様子は、シンからドロボー君に惚れてる証拠だ。
 ドロボー君、疑いが解けたわけではないが、証拠がなくては、どうに
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