もならず。
「とにかく、酒と、晩メシのオカズを買ってこい。カツレツがいいな」
「そんなお金ないよ」
ドロボー君、渋々千円札を一枚渡した。オタツは買い物にでた。するとドロボー君の様子が変った。
★
長年きたえたドロボー業、手練のコナシ。ナゲシに手をつッこんで隠し物の有無をしらべる。押入れを開けて一睨み。はては米ビツのフタまでとって改める。
「オレの留守中に、男をくわえこんで、ヘソクリをためてやがるに相違ない。タダで身を売るような女じゃないから、どうしても、ヘソクリが……」
イライラと諸方をかきまわしている。そのとき、シシド君が声をかけた。
「オッサン。自分のウチでもドロボーするのかい」
寝耳に水。意外の声をかけられて、オッサン、ギョッとすくんでしまった。
「なんだってエ?」
「オッサン、ドロボーだろう」
「ウーム。テメエ、知ってやがったのか」
「目の前で実演するから見ただけさ」
「ウーム。意外なことを言うなア。オレが人相を見て外れたタメシはないはずだが。……すると、オメエもドロボーだな」
「よせやい」
「じゃア、ドロボーと知って、ついてきたのは、どういうわ
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