けだ」
「用がなかったからだ」
「ヤイ。顔を見せろ。ウーム。オレの人相の見立てが狂うとは思わないが、どうも、分らなくなってきた。まア、いいや。ドロボーと知れた方がいッそ話がしいいだろう。オレがお前をつれてきたのは外でもない。これも人相の見立てからだが……」
タバコをくわえて火をつけたのは、気をしずめる必要にさしせまられてのせいらしい。ここへ辿りついてからは、思わぬことの連続だ。
「オレがかねて目をつけていた工場があるのだが、オメエが一汽車おくれた間に、オレがさっきその前を通りかかると、夜勤の警備員を求むてえハリ紙があるのを見つけたのだ。そこでオレが大急ぎで新宿駅へ駈け戻ったのは、オメエを探すため、ピリリとひびいた第六感てえ奴だなア。オレの気に入ったのは、引揚げ者の風体と、何よりもそのフクロウだな。誰の目にも実直な夜番にはこの上もない適役と見立てたくなる風態だ。オメエが工場長に面会して、ただいまシナから引揚げて参りましたが、宿無しですからどうぞ夜番に使って下さい、と頼んでみろ。願ってもない奴がきたと大喜びで使ってくれらア。これがオレの第六感。その時ピリッときた奴なんだな。外れッこないか
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