ら、やってみろ。工場へ住みこむのさ」
「わるくないな」
「オメエ、やる気か」
「やりたいね」
「ウーム。しかし、どうも、信用ができねえな。オメエ、いくら、欲しい。山わけか?」
「金はいらないや」
「フン。時々、返事が気にいらねえな。工場へ住みこんでドロボーの手引きはするつもりだろうな」
「宿がないから、住みこむのさ。昼間ねていられるのも気に入ったな。絵をかくには、夜の方が静かでいいよ」
「オレがドロボーだてえことを承知の上での言い草なら薄気味わるい野郎じゃないか。それとも、テメエ、薄バカか。イヤ、イヤ。オレの指先の早業を見ぬいたからにゃア、薄バカどころじゃアねえや。さては、テメエ、兇状もちだな。シナで人を殺しやがったろう」
「戦争中だもの。それにオレは兵隊だから、オレのタマに当って死んだのが二三人はいたかも知れないや」
「ウーム。わからねえ」
ドロボー君は相手の顔相を横目で睨んで考えこんだが、そこへ外の階段を登ってくる跫音《あしおと》がきこえたから、ハッと様子が改り、
「シッ! オレがドロボーだてえことをオタツに云っちゃアならねえぞ」
オタツが買い物から戻ってきた。
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