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「押入れが明けッ放しじゃないか。米ビツのフタが外れてるじゃないか。この野郎にお米をとがせたのかい?」
「うるせえな。仕事の旅からいま戻ったばかりの男に、やさしい言葉で物が言えねえのかよ。アレ四合ビンじゃないか。なんだって一升ビンを買ってこねえ」
「一升ビンで買ったって正味一升。コップ一パイのオマケがつくわけじゃアないよ。オマケのつかない物をまとめて買うバカはいないよ。私の買い物をツベコベ云うヒマがあったら、その野郎を階段から掃き出しちまいな」
「仕事を手伝ってくれる奴なんだから、あたたかい気持で見てやんなよ。オイ、こッちへきて一パイやんな」
四合ビンを持ちあげてシシド君に呼びかけると、オタツが四合ビンをひッたくッた。
「あの野郎にのませるお酒じゃないよ。ソースでも、のませるといいや」
これを聞くとシシド君、ムラムラと人生がたのしくなってきた。金魚のように見えるがハリアイのある女だ。からかってやりたくなったのである。
ノッソリ立ち上って六畳へ。チャブダイの上の買いたてのソースビンを手につかみ、フタをとって口につけようとすると、
「この野郎!」
オタツがソースビンをひ
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